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佐賀地方裁判所 昭和52年(ワ)225号 判決 1985年3月27日

原告

堤洋一郎

堤貴美子

右法定代理人親権者父

堤洋一郎

原告

田中キクヨ

右原告ら訴訟代理人

野方寛

被告

納富廉正

右訴訟代理人

安永澤太

安永宏

主文

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は、原告堤洋一郎に対し金一一〇三万三二六〇円、同堤貴美子に対し金五〇六万六五二〇円、同田中キクヨに対し金五〇〇万円及びこれらに対する昭和五二年一二月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一、請求原因

(当事者)

1 原告堤洋一郎(以下、「原告洋一郎」という。)は亡堤博子(以下、「博子」という。)の夫、原告堤貴美子(以下、「原告貴美子」という。)は右夫婦間の長女、原告田中キクヨ(以下、「原告キクヨ」という。)は博子の実母であり、被告は納富産婦人科医院(以下、「被告医院」という。)を経営する医師である。

(博子の診療経過及び死亡)

2 博子は、昭和五一年一一月一五日妊娠の兆候があり、昭和五二年一月二四日被告との間で姓娠、分娩に関する診察、治療を目的とする準委任契約を締結し、同日妊娠は正常、出産予定日は同年八月二二日と診断された。その後定期検診等のため通院を続けたが、同年八月一七日になつても出産の兆候がなかつたので同日被告の診断を受けたところ、母体も胎児も健康で異状もないとのことであり、被告から一週間後に来院するよう指示された。そこで、同月二四日通院したところ、母体も胎児も異状なしとのことであつた。<以下、省略>

理由

一請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二同3の事実のうち、博子が昭和五二年八月二九日の午前中に被告医院の看護婦の指示で入院したこと、その後途中までは正常な出産経過をたどつたこと、異常発生後被告が博子の家族に連絡をとつたこと、博子が同日午後五時三分に死亡したこと、以上の各事実は当事者間に争いがなく、右事実と前記一の事実に<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

(入院に至るまで)

1  博子は、昭和一六年一二月八日出生し、昭和四四年五月に女児一人(長女原告貴美子)を分娩したものであるが、昭和五二年一月二四日被告の診察を受け、妊娠三か月の初め、分娩予定日同年八月二二日と診断された。博子は、昭和三四年四月から昭和三六年九月まで胸椎カリエスを、昭和四六年から慢性肝炎を患らつていたが、右診察時においては、被告に対し、慢性肝炎も良くなつていると述べ、被告も肝機能の低下はないものと診断した。

2  博子は、同年二月一九日つわりが強く、吐気がし食欲がないということで被告の診察を受けたが、被告は同日つわり(特に吐気)を押さえる注射(五パーセントブドウ糖二〇ミリリットルとライポミンS1.0ミリリットル、トレステン0.65パーセント1.0ミリリットル)をし、同様の効果のあるウルソ散という薬を処方した。

同月二四日の定期検診において、被告は博子の梅毒検査と血色素検査を実施し、その結果梅毒検査は陰性、血色素検査はヘモグロビン13.0グラムパーデシリットル(血液一デシリットル中に13.0グラム、パーセントでは八〇パーセントをやや超える程度)であり、女性の場合は一一グラムから一五グラムパーデシリットルが正常値とされているので、右数値から博子の状態は非常に良好で、貧血状態にはないことが判明した。

3  その後、博子は、同年三月二八日、四月二二日、五月一三日、六月四日、一七日に定期検診のため通院したが、この間特に異常はなかつた。ただ、博子が五月ごろ足のだるさを訴えたため、同月一三日被告は塩水分を制限するよう指示した。七月四日の定期検診において、博子のひざから下に浮腫があり、尿に蛋白が出たため(但し、血圧は正常であった。)、被告は軽い妊娠中毒症にかかつていると判断し、降圧利尿剤ハイドロモックス二錠を投与することにした。右塩水分制限の指示と降圧利尿剤の投与により、浮腫が消え、尿蛋白も出なくなり、八月には博子に異常な点はなくなつていた。

同月二四日の定期検診において、出産予定日を二日過ぎたのに陣痛が全然ないということで診察したところ、児頭は骨盤の中に下降してきており、胎児は非常に発育し過ぎている(子宮底三五センチ)が、子宮口はまだ堅い状態であつたから、被告はそのままおくとさらに予定日を超過し、あと一〇日ぐらいは陣痛が起こつて来ないと判断し、博子に軽い妊娠中毒の症状があつたためその再発のおそれと胎盤の機能低下による胎児への悪影響を考慮して、予定日を一週間超過しても陣痛が起きて来なければ、陣痛促進剤の使用による分娩誘導をすることにし、博子に対し八月二九日までに陣痛が来なければ同日朝九時ごろ入院するように指示した。

4  同年八月二九日午前一〇時ごろ、博子から被告医院の永原節子看護婦長(以下、「永原婦長」という。)に、「陣痛が来ないがどうしようか」という電話があつたので、永原婦長は入院の準備をして来院するように指示し、博子は同日午前一〇時三七分被告医院に入院した。

(入院後死亡に至るまで)

5 入院時において、博子には陣痛はなく、子宮口に一指挿入できるという状態であり、未だ分娩の準備もできていない段階であつた。胎児心音は規則正しく良好であつた。

同日一一時三〇分に助産婦平山高子が安産ブジー(頸管ブジー)を子宮口に挿入し、被告の指示により同一一時三五分から、陣痛促進剤として五パーセントブドウ糖五〇〇ミリリットル、アトニンO五単位、プロスタルモンF二〇〇〇ガンマー混合液を一分間二〇滴(一滴は0.05ミリリットル)の速度で点滴を開始した(滴下速度の正確を期すため右平山が博子の横についていた。)。その際、博子の血圧は一三二、七六であり、脈拍は規則正しく、胎児心音も規則正しかつた。同一一時五〇分から博子は被告医院の昼食を残さず食べた。

同日一時に安産ブジーが自然脱落し、子宮口が3.5横指開大の状態(全開は五横指開大)になり、四、五分おきに軽い陣痛が起こつてきた。胎児心音は良好であつた。被告は子宮口が3.5指開大の状態であるのに、陣痛が軽いのは卵膜が非常に硬いためであると判断し、同一時一〇分に人工破膜をした。羊水は白色透明で混濁はなく、胎児心音も良好で、破水と同時に児頭も下降して四、五分おきに陣痛発作が起こり、経過は非常に順調であった。

6 同日午後一時三〇分、博子が突然平山に対し「吐きたくなつた」と言い、昼食の際に食べたものを吐き、苦しそうな低い声で胸内苦悶を訴え意識もうろうとなつた。平山助産婦からの連絡を受けて、被告が直ちに分娩室へかけつけたところ、博子は額に脂汗をかいて苦しんでおり、再度昼食の際に食べたものを吐いた(嘔吐物の中に血液は混じつていなかつた。)が、その時の博子の状態は、脈拍はかすかに触れる程度、心臓音も非常に小さく、血圧は測定不能であり、ショック状態に陥つていた。

被告は直ちに博子の家族へ連絡するように看護婦に指示するとともに、人工蘇生器を使つて酸素吸入(一分間に五リットル)を開始し、呼吸が一旦停止したために人工呼吸も行ない、エホチール(昇圧剤)一アンプルを静注した。このころ胎児心音が聞こえなくなり、胎児が死亡した。そこで、被告は、そのまま陣痛促進剤の点滴を続けると陣痛を促進し母体に対する負担を重くすることになるので、母体の救命、ショック状態の改善のため、アトニン点滴を中止しラクトリンゲルに切り換えた。この時点におけるアトニン点滴の残量は三四〇ミリリットルであつた。

そして、同日午後一時四五分に点滴反対側に静脈切開をして血管の確保を行ない、エホチール三アンプル、デキサシエロソン(ショック状態改善のための副腎皮質ホルモン)五ミリグラム二アンプルを点滴により注入したが、状態の改善は見られなかった。そこで、被告は、子宮による腹部大動脈の圧迫を取り除いて、血圧の下降を防ぐべく、急速遂娩の必要があると判断した。

7 同日午後二時ごろ、原告洋一郎及びキクヨが来院したので、被告は分娩室前の看護婦詰所において、博子が突然ショック状態に陥つたこと、胎児が死亡したこと及び母体のショック状態を改善するために急速遂娩の必要があることを説明した。その際、被告は博子の心臓疾患の有無について質問したが、心臓は悪くないとのことであった。

8 同日二時一五分、被告はアトニンOの静脈注射を行ない、子宮口が四指開大の状態になつた時点で吸引分娩を行ない、さらに鉗子分娩を行なつた。その結果、同二時四二分に男児(体重三八〇〇グラム)が娩出された。死産ではあつたが、胎児に外見上の異常はなく、胎盤の機能に何らかの異常があるとも認められなかつた。博子の出血量は三〇〇ミリリットルであり、分娩の際の出血量としては普通であつた(右博子の血液は同日五時三〇分ごろ助産婦平山が捨てた。)。

9 被告は、同日午後三時一〇分弛緩出血予防のためアトニンOの静脈注射をし、同三時四〇分に美川内科医院の美川隆造医師に往診を依頼した。同四時二〇分ごろ右美川が来院したが、その時は博子は瀕死の状態であり(性器等に出血傾向はなかつた。)、ビタカンファー(強心剤)一四アンプル、ノルアドレナリン(昇圧剤)一アンプル、ソルコーテフ(副腎皮質ホルモン)一バイアルを右美川が投与した。しかし、博子のショック状態は遂に改善するに至らず、同五時三分に死亡した。

以上の事実が認められ<る。>

三請求原因4の事実のうち、被告作成の死亡診断書(甲第一号証)に、博子の直接死因は心不全で、その原因がショックである旨記載されていることは当事者間に争いがないが、被告は、博子の死因は羊水栓塞症によるショックであると主張するので、以下、博子の死因について検討する。

1  <証拠>によれば、以下の事実が認められる。

(一)  羊水栓塞症とは、分娩中羊水成分が母体血中に流入し、母体に急性ショック、出血などの劇症を起こすものである。

(二)  発症のメカニズムについては、何らかの原因(陣痛促進剤の使用がその一つではないかと言われている。)で羊水成分が母体血中に流入し、流入した羊水成分が心臓を通過して肺に達したときに、その中の有形成分や粘液様物質(胎児の皮膚からはがれた細胞、胎児の便など)が肺の小動脈に詰まり、一種の肺栓塞の状態となり、アナフィラキシー様のショックを起こし(急性ショック期)この急性ショック期を脱すると、羊水成分の中に血液を凝固しやすくする物質が含まれているために、多くのものに血液凝固障害が起こり、出血傾向が著明になる(出血期)。

(三)  ショック症状発症前の前駆症状として、ほとんどに悪心、嘔吐がみられ、その後突然胸内苦悶を訴え、不穏状態を呈し、チアノーゼ、呼吸困難等を起こす。そして、血圧は低下、脈拍は非常に早くなり、突然急死することが多い。

(四)  羊水栓塞症は、三〇〇〇ないし六〇〇〇の分娩に一例ある程度の極めて稀な症状であり、そのために事前に予見することは不可能であるが、死亡率は八〇ないし九〇パーセントに達し、症状も電撃的である。決定的な診断法、治療法はなく、解剖しない限り羊水栓塞症であるか否かわからないとされている。

(五)  一般に三〇ないし三五歳の経産婦に多いとされ、発症の時期は破水後が過半数を占め、約七〇パーセントが分娩中である。

2  右1の事実に照らして本件を見ると、前記二認定の事実、すなわち、博子が死亡当時三五歳の経産婦であつたこと、陣痛誘発剤として五パーセントブドウ糖五〇〇ミリリットル、アトニンO五単位、プロスタルモンF二〇〇〇ガンマー混合液の点滴開始後約二時間後にショック状態に陥つていること、破水後二〇分ほどして博子が突然吐気を起こし、嘔吐し胸内苦悶を訴え、意識もうろうとなり、脈拍はかすかに触れる程度、心臓音も非常に小さく、血圧は測定不能という右ショック状態に陥つていること、ショックの改善のため酸素吸入、人工呼吸、昇圧剤と副腎皮質ホルモンの点滴等が行なわれたが、状態の改善は見られなかつたこと、ショック状態の改善のないまま同日午後五時三分博子が死亡したことは右1の羊水栓塞症による症状経過等に概ね一致すると認められる。そこで、博子の死因として他の原因が考えられなければ、博子の死因は羊水栓塞症によるショックであると認めて差支えないものと考えられる。ところで、前記二認定の事実によれば、博子には心臓疾患の既往症はなく、妊娠中毒症も軽度のそれであり、分娩の際の出血も三〇〇ミリリットルと普通量であつたこと、博子がショック状態に陥つたのは陣痛促進剤の点滴開始後約二時間経過してからであつたことが認められるところ、証人品川信良及び同高村愼一の各証言、鑑定人高村愼一の鑑定結果によると、右各事実を前提とすれば、博子の死因として他の原因を考えることは困難であると認められる。

以上述べたところによれば、博子の死因は羊水栓塞症によるショックであると認めるのが相当である。

四そこで、被告の責任につき検討する。

1  出産前の検査について

原告は、請求原因4(一)(三)において、出産に際し多量の出血があることは出産前に予想されるところであるから、被告としては、本件出産前に血液検査及び心電図等による心臓の検査を行なうべき義務があると主張しているのであるが、前記二8認定の事実(博子の出血量が三〇〇ミリリットルであつて、出産の際の出血量としては普通であつたこと)からすれば、右主張はその前提を欠くものであり、さらに、被告は前記二2認定のとおり、血液検査を実施し、博子に貧血の症状のないことを確認しているし、また、原告キクヨ本人尋問の結果によると、博子に心臓疾患の既往症はなかつたことが認められるし、前記二認定の事実によると、博子が被告に対し心臓疾患の既往症があること、その他心臓の異常を訴えたことは窺われないところ(本件他の証拠によつても博子に心臓の異常があつたとは認め難い。)、<証拠>によれば、妊娠に心臓疾患を疑わせる症状がある場合やその既往歴のある場合の外は、一般的に全妊婦に心電図等による心臓の検査を実施することはしないことが認められるのであるから、被告が心電図による心臓の検査をしなかつたことをもつて、被告の診療行為に不適切な点があつたものとは言えない(なお、帝王切開等が予想される場合にも、心電図をとる必要があるとされるが、本件では帝王切開をすべき事情は証拠上認められない。)。

2  陣痛促進剤の使用について

被告が博子に対し陣痛促進剤を使用することにしたこと、その使用方法は前記二3、5認定のとおりである。ところで、<証拠>によれば、陣痛促進剤として使用されるプロスタルモンF、アトニンOは、いずれも、子宮収縮作用を有しており、極めて広く使用されているもので、両者の混合液によると陣痛促進の効果がさらに確実となるとされていること、その使用方法としては、五〇〇ミリリットルの乳酸を含んだリンゲル液(やや糖を加えたもの)にアトニンO五単位とプロスタルモンF二〇〇〇マイクログラムを加えたものを点滴により最初は一五滴ないし二〇滴ぐらいから投与する方法が現在のところ最も良い(あるいは標準的な)方法とされていること、陣痛促進剤を使用する分娩誘導の適用対象のひとつとして出産予定日超過の場合が挙げられること、それは、出産予定日を経過すると母体の胎盤の機能が低下し胎児に悪影響(胎児が胎内で死亡する場合もある。)を及ぼすので、予定日を一週間ないし一〇日ぐらい超過する以前に分娩に至るのが望ましいからであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右事実に照らすと、被告が博子に陣痛促進剤を使用することにし、前記二5認定の方法で使用したことについて何ら不適切な点は認められない(原告は、請求原因4(三)(1)において、陣痛促進剤点滴の際に一時に全量を注射したと主張するが、この事実は認められない。)。

3  ショックに対する処置について

被告が、ショック状態に陥つた博子に対して採つた処置は前記二6認定のとおりである。ところで、証人美川隆造、同寺島溥、同品川信良の各証言によると、ショック状態(非出血性のもの)に陥つた患者に対して採るべき処置は、血管の確保、酸素の吸入、強心剤、副腎皮質ホルモンの投与などであることが認められるのであるが、これに照らすと被告の採つた処置は相当であり、何ら不適切な点は認められない(なお、美川医師の採つた処置は前記二9認定のとおりであるところ、美川隆造の証言によると右処置は、被告の処置の継続という意味をもつものであると認められるのであり、この点からも被告の処置に不適切な点がなかつたものと認めることができる。)。

なお、原告キクヨ、同洋一郎は、胎児が死亡した後でも吸引、鉗子分娩ではなく、帝王切開による分娩をすれば、博子の命を救うことができたのではないかと証言するのであるが、証人寺島溥、同品川信良の各証言、被告本人尋問の結果によると、ショック状態にある妊婦に帝王切開を行なうことは、妊婦にかかる負担が大きく危険を伴ない、ショック状態がさらに進行するおそれがあること、ショックの改善のため、死んだ胎児をなるべく早く母体から娩出させる必要はあるが、本件のごとく子宮が3.5指開大で全開に近い状態のときには帝王切開によることは適当ではなく、経膣分娩によるべきであり(子宮破裂などの異常がある場合は別であるが、本件では右異常は認められない。)、その際吸引、鉗子分娩という処置をとることは、可及的速やかに母体の負担を軽減するという意味から、一時的には母体に負担をかけることになるとしても、不適切とは言えないこと、以上の事実が認められるのであるから、前記各証言は、家族の感情としては理解できるが、それにより被告の処置に不適切な点があつたと認めることはできない。

4  羊水栓塞症の予見可能性について

原告は、請求原因4(二)において、陣痛促進剤を使用した場合には、統計上羊水栓塞症が起こり易いとされている旨主張しており、前記三1の事実によれば、陣痛促進剤使用と羊水栓塞症との関連が認められるのであるが、同じく三1の事実、<証拠>によれば、羊水栓塞症は三〇〇〇例ないし六〇〇〇例の分娩に一例ある程度の極めて稀な症状で、事前に予見することは不可能であり(しかも、前駆症状である悪心、嘔吐などから羊水栓塞症に結び付けて考えることも非常に困難である。)、陣痛促進剤の使用についても、いくつかのリスクファクターの中の一つとして挙げられているに止まり、事前の予知の可能性と結び付けて論じられているものではないことが認められる。

5  以上述べたとおり、被告の博子に対する処置については何ら不適切な点はなく、かつ、羊水栓塞症についての予見可能性もないから、被告に過失があつたものとは認め難い。

五<省略>

(綱脇和久 森野俊彦 野尻純夫)

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